白ねずみの本棚

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【読書感想】『増補改訂版 眠れなくなる宇宙のはなし』すごく良かった

本作のお気に入り度は
5★★★★★

 

作品情報

『増補改訂版 眠れなくなる宇宙のはなし』

宇宙論の決定版ロングセラーが装いも新たに増補改訂版として刊行されます。古代インドの奇妙な宇宙観から、コペルニクスによる宇宙像の大転換、そして最新のブレーン宇宙論まで、人間が宇宙の真の姿をひもといてきた様子を物語のように描きます。長崎訓子さんの味わい深いイラストも必見です。さらに2016年に発表された重力波初検出の衝撃をどこよりもわかりやすく解説します。宇宙論の権威、佐藤勝彦氏が再び贈る最高傑作!

※本書は2008年7月に小社より刊行した『眠れなくなる宇宙のはなし』を加筆・修正し、「重力波」についての新章を加えたものです。

(宝島社)

著者 佐藤 勝彦 

発売 2016/9/17

出版 宝島社

 

はしがき

軽く読めて面白そうな宇宙の本を探していると、本書を発見。中をパラパラ見ると内容も薄すぎず濃すぎず、ちょうど良さそうな感じ。出版は2016年と割と新しい。(科学は日々進歩しているので、こういう本もなるべく新しいものの方が安心。)ところでこのタイトル、もっと昔に聞いたことがあるような。それもそのはず、2008年に出版され人気を博した同タイトル(『眠れなくなる宇宙のはなし』)の増補改訂版とのこと。10年近く経ってなお新しく刷られているということで、面白さは折り紙付きか。

 

感想

結論から言うととても良かった。

専門知識が何も無くても、スラスラ読み進められる易しい文章で書かれている割に、丁寧な説明で宇宙科学の歴史がはるか古代から最先端の話題まで網羅された内容は、かなり充実していると感じた。思わず読んでみたくなる表紙と中の挿絵も、ゆるい雰囲気で親しみやすく、とても良い。

穏やかに語り掛けるような文章で遠い宇宙の世界に案内してくれる本書は、日ごろの喧騒とストレスから離れてリラックスするのにも良いし、あるいは宇宙の研究についてゼロから学びたい人のためのとっかかりとしても十分な役割を果たしてくれるだろう。

 

 

話は遥か古代の神話から始まる。人々は宇宙をどのようにとらえてきたか。古代から中世、近代、そして最新の話題まで、順を追って語られる。

 

タイトルの「眠れなくなる」という文句については、実際はそんなこともなかった(むしろ眠くなる)のだが、章の終わりに書かれている一言が、意図してか否かこのタイトルへのアンチワードになっていてちょっと笑った。

 

宇宙の姿を解き明かそうとしてきた人間の何世代にもわたる歴史と進歩には感慨深いものがあり、同時にそれだけ長い時をかけてもまだほとんど何も分かっていないと言われる圧倒的宇宙のスケールと人間の小ささに対し、無力感と安心感の入り混じったような不思議な気持ちになる。

 

大昔の研究者が小さな望遠鏡で星を観察していた頃から時は流れ、今や宇宙の研究は、超巨大な望遠鏡や大掛かりな実験施設などで行われ、一見、素人には全く手の届かないところまで進んでしまったように感じられる。しかし、いまだ宇宙は無限の未知である。アマチュアの天体観測が新しい星や現象を発見することもあるし、机の上で思い付いた斬新な理論が評価されることもある。そんな風に考えると、自分にも宇宙を研究する余地があるように思えて、夜空を観察したり宇宙の計算式を考えてみたくなる。

 

宇宙は無限か有限か?始まりはあるのかないのか。遥か昔から存在するこの問いにも、実はまだ確実な答えというのは出ていない。宇宙の姿を11次元であるとする考えも紹介されていた。常識的に考ると意味不明で、あり得ないような話だが、常識は覆されうるものだという事はこれまでの歴史が教えてくれている。ところで近年、宇宙の始まりに関係する「重力波」の検出に初めて成功したという。日進月歩の科学は宇宙をどこまで解き明かせるだろうか。

 

ロマンチックな神話と古代の話から始まった星空の物語は、宇宙科学の発展の歴史を経て、現代の最先端の内容までたどり着き、そして最後にはなんと冒頭の神話の話に戻ってくる。この構成のおかげで、全体がより一層まとまりがあって感動的なものに感じられ、途中の話が少し難しく感じたとしても、頭から最後まで読んだ時に「全部読んでよかった~」というすっきりとした気持ちになり、高い満足感が得られるように思う。